運用設計

法人サイトのバックアップ設計

RPO・RTO、保存対象、世代管理、復元試験。バックアップを「取れる」から「戻せる」状態にする設計例です。

初稿:2026年9月20日運営:合同会社イクシル更新:2026年10月3日

結論:バックアップの成功と、復旧の成功は別です

法人サイトでは「何を保存するか」だけでなく、「どの時点まで戻せればよいか」「何時間で復旧したいか」を先に決めます。取得結果の確認と、安全な環境での復元試験までを、運用の一部として設計します。

1. RPO・RTOを業務側と決めます

RPO(目標復旧時点)は、どれだけ前のデータに戻ることを許容できるかという時間の目標です。RTO(目標復旧時間)は、サービス停止から復旧までに許容する時間の目標です。業務影響に基づいて設定する考え方を、AWS Well-Architectedの復旧目標の解説で確認できます。

例:毎日更新する会社紹介サイト

業務側が「前日の内容まで戻せればよい」「停止から4時間以内に戻したい」と合意したと仮定すると、検討の出発点はRPO 24時間・RTO 4時間です。これは推奨値や実測値ではありません。更新の多い受注・予約データに、そのまま適用しないでください。

RTOにはファイルの転送だけでなく、検知、担当者への連絡、復旧可否の判断、作業、動作確認も含めて見積もります。夜間に担当者がいない体制なら、作業時間だけを測って目標達成と判断しないことが重要です。

2. 保存対象を棚卸しします

WordPressでは、通常、データベースとサイトのファイルの両方が復元に必要です。ファイルだけをダウンロードしても、投稿や設定等を含むデータベースの保護にはなりません。WordPress公式のBackupsを参照し、構成に応じた対象を確認します。

サイト構成別の確認例
対象保存・確認するもの復元時の注意点
静的サイト公開HTML・画像・CSS・ソース・生成手順ソースから公開物を再現できるか確認
CMSファイル・DB・構成情報ファイルとDBの時点・バージョンの整合を確認
DNS・契約DNS設定の記録、契約先、管理権限変更権限と代理管理者の有無を確認
外部連携フォーム、メール等の設定・依存先サイト側の保存だけでは、外部サービス内のデータは保護できない
秘密情報復旧に必要な鍵・接続情報の安全な保管方法公開リポジトリや公開ディレクトリには入れない

3. 保存間隔・保持期間・保存先を別々に決めます

取得間隔は失ってよい更新量に、保持期間は不具合に気づくまでの期間に影響します。毎日取得していても、問題が発覚する前に健全な世代が消えていれば復旧に使えません。また、本番環境と同じ管理権限で全バックアップを削除できる構成には、権限侵害の影響が及ぶ可能性があります。

以下は本稿の設計例です。実際のデータ量・要件・契約条件に合わせて変更してください。

  • 小規模な広報サイトの検討例として、日次の取得と、重要な更新直前の追加取得を組み合わせます。
  • 保持期間は一律に決めず、誤更新の発見や確認に何日かかるかを踏まえて選びます。
  • 本番と別の保存先や、削除権限を分離する方法を検討します。暗号化・復号鍵の保管も含めます。
  • 取得失敗・容量不足を担当者に通知し、「取得したはず」のまま放置しない運用にします。

ファイル同期やミラーだけでは、誤削除まで反映する場合があります。過去の状態を保護できるか、復元する機能と保持条件を確認してください。

4. 復元試験を運用に組み込みます

AWSの災害復旧テストの指針では、復旧方法とRTO・RPOの達成を試験で確認する考え方が示されています。小規模サイトでは、まず本番に影響しない検証環境で、次の手順を確認する方法を提案します。

  1. 試験条件を決める:対象世代、開始時点、合格基準、担当者、想定障害を記録します。
  2. 検証環境を隔離する:外部公開、実メール送信、決済、予約登録などを無効化・制限します。
  3. ファイルとDBを復元する:構成情報とバージョンを合わせ、認証情報は安全な経路で設定します。
  4. 業務機能を確認する:トップだけでなく記事、画像、管理画面、フォーム連携も試験用条件で確認します。
  5. 時間と欠損を測る:作業時間と戻せたデータ時点を記録し、想定RTO・RPOとの隔たりを整理します。
  6. 手順を更新する:不足した権限、失敗した操作、担当不在時の課題を記録します。

一例として四半期ごとの確認と、重要な構成変更後の再試験を検討できます。頻度は本稿の例示であり、どのサイトにも十分だという保証ではありません。本番への切替試験が必要なシステムは、別途承認と切戻し計画を用意します。

参考資料と確認範囲